奈良県立医科大学 泌尿器科学教室
教授 藤本清秀
奈良県立医科大学泌尿器科学教室の藤本でございます。平素より皆様からは多大なご支援とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。一言ご挨拶を申し上げます。
昨今のわが国におきましては、医療経済の逼迫、安全神話に対する不信感、医師不足と医療施設の偏在など、医療に関する問題が山積されております。大学病院も医療機関のひとつとして日々多くの課題に直面していますが、一朝一夕に解決できる問題ではありません。大学病院は臨床教育と研修の場であり、最先端の医療の推進とそれを担う医療人の育成が重要な使命でありますが、同時に日常の診療を行う点では、標準的な医療の質を維持することも大変重要であります。特に、大都市隣接地域と広い過疎地域を有する奈良県においては、僻地を含む県下の地域医療機関と連携し、その中核施設としての役割・機能を果たすことが求められ、また、最良の医療を追究し、それを提供できる良医の育成も重要な使命であります。
泌尿器科学は、本来外科学の一分野でありますが、外科治療のみで全てが解決できるものではありません。最新の薬学や医療工学の成果を駆使し、個々の患者さんに最適の治療法を提示し、患者さんと共に選択し、常に日常生活の質(QOL)を重視した診療を心掛けています。当教室の主要な診療領域は、泌尿器悪性腫瘍、排尿機能障害、腎不全・腎移植、小児泌尿器科疾患でありますが、高齢社会となった日本の医療におきましては、今後も泌尿器科領域の診療の需要は益々増大するものと考え、これらの領域を診療と研究の柱としてプライマリケアから高度先進医療まで担ってまいります。
当科の診療の特色としまして、腎癌の無阻血腎温存手術、膀胱癌の光力学診断、前立腺癌の永久小線源組織内照射法(ブラキテラピー)、各種泌尿器科手術における腹腔鏡や内視鏡手術の導入など、根治性の高い低侵襲治療を推進しています。また各種進行癌については、外科治療に併せて化学療法や放射線療法による集学的治療を行っています。排尿障害については、男性の前立腺肥大症と女性の尿失禁に対する外科治療、過活動膀胱や夜間頻尿と睡眠障害を診療・研究のテーマにしています。腎不全・移植領域では、県内の関連施設と共に透析医療の管理と生体腎移植を推進し、腎移植症例は年間20件を超えております。昨今少子化が問題となっておりますが、わが国の未来を担う子供たちに降りかかる健康上の問題を解消するため、小児泌尿器科を専門性の高い領域のひとつとして認識し、低侵襲な腹腔鏡手術や高度な尿路形成術など、小児泌尿器科領域の診療の充実を図っております。また研究面では、医学と工学を連携させ新しい診断・治療の器機やシステムの開発を目指し、医工連携を課題とした公的資金の助成を受け、研究開発を進めています。
わが国の歴史と文化の発祥の地である奈良県・大和の地で、皆様とともに日本の医療の発展に貢献してゆきたいと思います。昨今の日本の社会情勢は暗澹としておりますが、次の世代、さらに次の世代が安心して質の高い医療を受けられるように、質実剛健を教室の気風として、明るく誠実な診療・教育・研究の姿勢を教室員一同目指しています。今後とも、どうぞ厳しいご指導、ご鞭撻ならびに温かなご支援を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
平成24年9月吉日