上部尿路がんとは?
腎臓は腎実質(腎実質はさらに皮質と髄質に分けられる)という尿をつくる部分と、腎実質によりつくられた尿が集まる腎盂(じんう)という組織からできています。尿管は腎臓と膀胱をつないでいる長い管で、左右に原則1本ずつあります。腎実質でつくられた尿は腎盂に集まり、排泄(はいせつ)のため尿管を通って膀胱へと送られます。腎盂と尿管は上部尿路と呼ばれ、ここにできるがんは「腎盂・尿管がん」という1つのグループとして扱われます。腎盂から尿管、膀胱、尿道の一部へとつながる臓器は尿路上皮と呼ばれる粘膜でできており、ここから発生するがんを尿路上皮がんといい、腎盂・尿管がんのほとんどは尿路上皮がんです。腎盂は腎臓の一部ですが、「腎細胞がん」は腎臓から発生するがんであり、腎盂・尿管がんとは性質が違うため、別の病気として扱われます。
ほとんどの膀胱がんも尿路上皮がんであり、特徴はよく似ています。腎盂・尿管がんでは、治療後30〜50%程度で、膀胱にがんが発生することが知られています。発生頻度は、人口10万人あたり0.5人程度で泌尿器科のがんの中でも比較的まれで、男性に多い傾向があります。膀胱がんと同様に喫煙が最も重要な危険因子としてあげられています。一般的に予後は比較的不良といわれています。 別で示すような病期別の5年生存率は、pTa-1、pT2、pT3、pT4でそれぞれ、92.1-97.8%、74.7-84.1%、54.0-56.3%、0-12.2%と報告されています。
診断は?
腎盂・尿管がんで最も多い症状は、肉眼でもわかる血尿です。尿管が血液でつまった場合や、がんが周囲に広がった場合などには、腰や背中、わき腹の痛みが起こることもあります。これらの痛みは尿管結石(腎盂や尿管に石がある状態)と似ており、強い痛みが起こったり消えたりします。排尿痛や頻尿が起こることもあります。がんで尿管がふさがると、腎臓の中に尿がたまった状態(水腎症)になります。これが長く続くと、腎臓が機能しなくなってしまうことがあります。片方の腎臓が機能しなくなっても、もう一方の腎臓が機能を補いますので、尿が出なくなったり、体がむくむような腎不全の症状はそれほど多くは起こりません。最近では、健診での超音波(エコー)検査で水腎症が見つかり、精密検査をした結果、腎盂・尿管がんが発見されることもあります。腎盂・尿管がんが疑われた場合には、膀胱鏡検査、尿の中にがん細胞の有無を確認する尿細胞診検査、CT検査(腎臓機能に問題がなければ造影剤を使用)を行います。以上の検査によって異常が指摘された場合や確定診断に至らない場合には、逆行性腎盂造影(RP)や入院の上で尿管鏡検査を行う場合があります。腎盂・尿管がんと診断された場合には、がんの広がりや、リンパ節、肺、骨、肝臓などへの転移がないかどうかを調べるため胸腹部のCT、骨シンチグラフィ、MRIなどの画像検査を行います。
臨床病期分類
臨床病期 | T分類 (腫瘍の深さ) |
N分類 (リンパ節転移) |
M分類 (遠隔転移) |
---|---|---|---|
ステージ0〜1 | Ta, Tis, T1 | N0 | M0 |
ステージ2 | T2 | N0 | M0 |
ステージ3 | T3 | N0 | M0 |
ステージ4 | T4 | N0 | M0 |
Tに関係なく | N1, N2 | M0 | |
Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
治療は?
転移のない腎盂・尿管がんに対する治療方針は、外科治療が主体です。術前の画像診断などにより浸潤がんであることが疑われた場合は、抗がん剤による化学療法を施行した後、手術を行うことがあります。根治的手術の基本は、がんが発生した片側の腎臓、尿管、さらには膀胱壁の一部も含めた腎尿管全摘+膀胱部分切除が標準的治療です。
浸潤性のがんであった場合、予後は膀胱がんより不良であることが多くなっています。これは、尿管壁は非常に薄いため、浸潤性の尿管がんの場合は、容易に壁外に進展するからです。また、浸潤性の腎盂がんでは、血管やリンパ管が豊富な腎実質内へ進展し、転移することが多いからです。浸潤性のがんであると考えられる場合には、手術前や手術後に抗がん剤の治療を行い、再発を少しでも少なくするような治療を行う必要があることがあります。すでにほかの臓器に転移している場合、外科療法の適応にはならず、抗がん剤による全身治療を行います。
腎尿管全摘除術+膀胱部分切除術
腎盂がん・尿管がんに対する標準的な外科治療方法です。がんのある片側の腎臓、尿管、さらに膀胱壁の一部を含めた全ての上部尿路の摘出および膀胱部分切除を行うことが多いです。腎臓と尿管全体を摘出するため、その腎臓の側の腎盂や尿管からの再発の心配はありません。ただし、膀胱内にがんの再発がみられる場合があります。腎臓は左右に1つずつあるため、片方の腎臓を摘出しても、もう一方の腎臓が正常に機能すれば生活上の制限はあまりなく、人工透析が必要になることはまれです。高リスク(T3以上、リンパ節転移疑い)では術前化学療法を行った上で行います。腹腔鏡を使用して手術を行い、下腹部に小さな切開を追加して、腎臓〜尿管〜膀胱の一部を一塊にして摘出する方法が一般的です。高リスクの場合には周りの臓器の癒着や広い範囲のリンパ節の摘出が必要になるため、最初から開腹手術を行うこともあります。
腎温存療法(尿路内視鏡下レーザー焼灼術など)
尿路内視鏡下レーザー焼灼術は、基本的には画像検査や生検で悪性度の低い小さな腫瘍と診断された場合に行います。尿管鏡という細い内視鏡を使用して、内視鏡で腫瘍を確認し、レーザーで腫瘍を焼灼する方法です。再発の有無を確認するために入院の上で尿管鏡検査による定期検査が必要になります。この治療法では通常使用する白色光源では見落とすような小さな腫瘍や平坦な腫瘍があった場合には,将来再発を引き起こす可能性があります。当院では,アミノレブリン酸塩酸塩という薬を用いて,腫瘍部位を赤く光らせることによって腫瘍の見逃しを減らすような試みを行っております。しかしながら,この薬剤は上部尿路がんという疾患においての使用は保険適応とはなりませんので,特定臨床研究(試験番号 jRCTs051210042) という枠組みで実施しております。ですので,すべての患者さんに使用できるとは限りません。詳しくは担当医におききいただければと思います。
また、がんが尿管のみにある場合や1つしかない腎臓の腎盂や尿管にがんが発生した場合などは、腎臓を摘出せず、尿管の部分切除を行うことがあります。しかし、残った部分に再発す可能性がありますので、治療選択の際には担当医とよく相談して治療方針を決定してください。
切除不能または転移性尿路上皮がん
膀胱がんも上部尿路がんも進行すれば,周囲の組織に浸潤したり,ほかの内臓へと転移します。この病状のことを,『切除不能または転移性尿路上皮がん』 と呼びます。この状態では手術で腫瘍を完全に取り去ることは難しく,まずは抗がん剤などの薬物治療が中心となります。数種類の抗がん剤を組み合わせて使う多剤併用化学療法が試みられます。このような転移例の場合にも,抗がん剤治療の効果をみて、手術や放射線治療を追加することもあります。
シスプラチンという薬剤を含む治療方法が有効でGC療法やMVAC療法、ddMVAC(dose dense MVAC)療法といったレジメンを用います。シスプラチンを含む治療は腎機能が低下している方には使用することが難しいことがあるために薬剤の減量したり、腎臓に影響の少ないカルボプラチンなどの薬剤へ変更が必要することがあります。抗がん剤の効果と副作用には個人差があるため、効果と副作用の両方を評価しながら、よく相談して抗がん剤治療を行っていきます。
一次治療として行った化学療法後には、キイトルーダ(一般名:ペンプロリズマブ)やバベンチオ(一般名:アベルマブ)と呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤を使用します。がん細胞への免疫機能にブレーキがかからないようにして、免疫細胞などががん細胞を攻撃する力を高め、がんの縮小効果を示すと言われています。
一次治療の抗がん剤にも,そのあとの免疫チェックポイント阻害剤にも効果がなくなった場合には,エンホルツマブ・ベドチン (商品名:パドセブ) という薬剤を使用することもあります。