小児泌尿器科疾患とは?
腎・尿管・膀胱・尿道の尿路系疾患と、男児の精巣・陰茎や女児の外陰部の疾患など外性器疾患を主に扱います。出生前に診断される疾患も増加しており、胎児期から新生児科医や産科医とともに診療を行う場合もあります。
奈良県立医科大学 泌尿器科における小児泌尿器科診療の特徴
当施設では、日本小児泌尿器科学会認定医の資格をもつ2名の医師が、豊富な経験と新たな研究成果をもとに診療を行っています。積極的に国内外の学会などに参加し、他施設の医師との交流を図りながら良質な医療を提供できるように心がけています。また、皮膚・排泄ケア認定看護師 と連携しながら、脊髄障害に起因する排尿・排便障害の管理を積極的に行っています。
短期入院での治療が可能です
日帰り手術は行っておりませんが、停留精巣・陰嚢水腫・尿道下裂・内視鏡の手術なら手術翌日、膀胱尿管逆流症根治術は術後2-5日、腎盂形成術は術後3-5日程度で退院可能です。
腹腔鏡手術・ロボット支援手術を積極的に取り入れています
日本泌尿器内視鏡学会の泌尿器科腹腔鏡技術認定制度の技術認定を得ており、腹腔鏡下停留精巣固定術のほかに萎縮腎に対する腹腔鏡下腎摘除術や腎盂尿管移行部狭窄症に対するロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術や膀胱尿管逆流症に対する経膀胱アプローチによる腹腔鏡下逆流防止術などの高度な治療も行っています。
小児泌尿器科で扱う主な疾患
1.停留精巣(図1)
お母さんのおなかにいる胎児期に、精巣は腹部から陰嚢に降りてきます。それが途中で止まり、片側(もしくは両側)の精巣が陰嚢内まで降りてこない状態をいいます。この疾患の問題点としては、1)将来の精巣の機能障害(とくに精子形成能について)がおこること、2)精巣腫瘍の発生率が正常に下降した精巣と比べて高い、などがあります。6ヶ月までは自然に降りてくる可能性がありますが、それ以降では自然下降は期待できず、精巣を陰嚢内に下降させる手術(精巣固定術)を行う必要があります。当科では、腹腔内に停留した精巣に対する腹腔鏡手術も行っています。
2.陰嚢水腫(陰嚢水瘤、精索水瘤)
精巣の周囲に水がたまる病気で、鼠径ヘルニア(脱腸)と同じで、腹膜と精巣を包む膜との間の通路(腹膜鞘状突起)が閉じずに開いたままとなっていることが原因です。自然閉鎖を期待して経過を見ますが、改善しない場合は手術治療を行うこともあります。
3.尿道下裂
尿の出口(外尿道口)が、陰茎の先端ではなく陰茎の途中や根元に開口している状態のことをいい、胎児期での男性ホルモンの分泌異常や組織反応の異常に原因があるといわれています。陰茎そのものも下方へ屈曲するのが特徴です。このような形態の異常から、1)陰茎の屈曲のために勃起障害が起こり、2)立位での排尿が困難となる、3)性的コンプレックスの原因となる、などの問題点があります。自然に治ることはなく、尿道形成術が必要となります。また、口腔粘膜の移植術やグラフトを用いた最新の技術を駆使した高度な尿道形成術も行っています。
4.包茎、埋没陰茎
子供は亀頭部分が包皮で被われていますが、年齢とともに自然に亀頭部が露出されてきます。しかし、包皮炎を繰り返す場合などには、治療が必要となります。当科では最初に包皮をめくる訓練を指導しています(場合によりステロイド含有軟膏を使用)。それでも改善がない場合には手術を行うことがあります。また包茎状態のお子さんの中には陰茎が埋もれたように見える埋没陰茎などの特殊な病態もあります。埋没陰茎のお子さんで排尿状態が悪く(尿がまっすぐ飛ばない)、成長しても亀頭が露出する可能性が低いと考えられる場合は、手術治療が必要となることがあります。
5.膀胱尿管逆流(VUR)
腎臓で作られた尿は、尿管を通過し、膀胱に貯まり、尿道に排出されますが、正常な排尿ではこの流れは一方通行で、尿管から膀胱に入るところ(尿管膀胱移行部)の筋肉の作用で、膀胱に貯まった尿が尿管に逆流しない仕組み(逆流防止機構)が働いています。この逆流防止機構に問題があり、尿が尿管や腎臓まで逆流するものを膀胱尿管逆流症(VUR)といいます。腎盂腎炎などの有熱性尿路感染症の原因となり、繰り返す腎臓の炎症によって腎機能の障害を受けます。成長とともに自然に消失する可能性もあることから、少量の抗生剤投与により尿路感染予防を行いながら経過観察することが多いですが、尿路感染を繰り返す場合や経過観察でも改善しない場合には逆流防止の手術治療が必要となります。
現在当科で施行している手術治療は1)内視鏡下注入療法 2)開腹下逆流防止術 3)経膀胱アプローチによる腹腔鏡下逆流防止術の3つです。
1)内視鏡下注入療法
Deflux®を用いた内視鏡下注入療法は2泊3日の短期入院での治療が可能で、膀胱鏡下に行う手術でお腹の傷はありません。低侵襲な治療方法ですが、その他の手術方法と比較して、逆流の消失率が高くなく、高度の逆流を認める場合にはより成績が悪くなってしまいます。
2)開腹下逆流防止術
約3cmの傷で手術を行っています。下着から隠れるの位置で横に切開するため傷はあまり目立ちません。根治率は高く95%以上で逆流を制御できます。膀胱を切開して膀胱の中から手術を行う方法と膀胱を切開せずに行う方法があります。膀胱を切開する方法の場合には術後しばらく血尿や下腹部の痛みを認めます。
3)経膀胱アプローチによる腹腔鏡下逆流防止術
膀胱の中にガスを入れて腹腔鏡の道具を使用して行う手術です。膀胱の中で行う手術ですが、膀胱の中で行う開放手術と比較して術後の血尿や下腹部の痛みは軽減されます。逆流の消失率は開放手術と比較してやや劣っており90%程度です。
3つの手術方法についてはそれぞれに利点欠点があり、患者さんおよびご家族の方に十分な説明を行った上で、治療方法を決定しています。
6.水腎症
腎臓から膀胱までの途中(腎盂尿管移行部、尿管、尿管膀胱移行部)で、尿の流れが悪くなり、腎盂腎杯と呼ばれる腎臓内の尿路が拡張した状態のことをいい、腎機能が障害されることがあります。胎児期の超音波検査で発見されることも多く、原因として最も多いものは腎臓と尿管の移行部が狭くなった腎盂尿管移行部狭窄症です。腎盂尿管移行部狭窄症の場合、自然軽快が期待できる場合もあるため経過観察する場合ことが多いですが、水腎症の程度が増悪したり、腎機能が悪化する場合には手術治療が必要となるため、定期的な検診が大切です。現在当科で施行している腎盂尿管移行部狭窄症に対する手術治療は、1)開腹下腎盂形成術 2)腹腔鏡下腎盂形成術 3)ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術の3つです。年齢や体格などに合わせて手術方法を決定しています。
1)開腹下腎盂形成術
主に乳児や体格が小さいお子さんに行っています。お腹の側面に約2-2.5cmの傷で手術を行っています。
2)腹腔鏡下腎盂形成術
お腹に3か所の5mmの小さな穴を開けて手術を行います。1か所は臍の傷であるため目立ちにくい傷になります。腹腔鏡手術であるため、ある程度の体格が必要になります。
3)ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術
手術支援ロボットのダビンチを使用した腹腔鏡手術が腎盂形成術に対しても2020年4月より保険適応になりました。従来の腹腔鏡より自由度の高い手術用鉗子を使用することが可能で、3次元画像を用いた手術となるためにより繊細で安全な手術操作が可能になります。当院では成人だけでなく小児に対してもロボット手術で腎盂形成術を行っています。小児では、臍とパンツの下に隠れる目立たない傷による手術方法も行っています(図2)。
その他に水腎症をきたす原因疾患としては尿管膀胱移行部狭窄、膀胱尿管逆流、尿管瘤、異所開口尿管、後部尿道弁などが挙げられます。原因疾患によっては早急な手術治療を要する場合もあり、迅速で正確な診断が重要になります。
7.二分脊椎・神経因性膀胱
先天性の脊髄の障害により排尿および排便機能に異常が出る病気です。腎機能保持や排泄に対するケアが重要になります。当科では排尿および排便機能障害に対する内科的および外科的治療をトータルに行っています。生涯にわたる排尿・排便管理が必要となりますが、当科では小児から成人までのすべての年齢層の患者さんをカバーし、排泄管理専門ナースとともに患者さんに寄り添った医療を提供しています。また従来の薬物治療とカテーテルによる排尿の管理でコントロールが難しい場合に腸管を利用した膀胱拡大術という大きな手術が行われてきましたが、2019年12月に成人の患者さんにはボツリヌス毒素の膀胱内注入療法が保険適応となりました。当院では小児の患者さんに対してもボツリヌス毒素の膀胱内注入療法を先進医療として小児の患者さんに安全性を確かめるための臨床試験を行っています。
8.夜のおねしょ(夜尿症)や昼間のおもらし(昼間尿失禁)
膀胱や尿道の機能的要因、睡眠機構の要因、遺伝的要因、内分泌的要因、精神的要因など原因は様々です。当科ではできるだけ患者さんの負担の少ない検査や治療を中心に行うよう心がけています。
9.尿道狭窄
小児や成人を問わず先天性および後天性(外傷や手術後などによる)尿道狭窄の治療を行っています。多くの場合は内視鏡治療を行いますが、内視鏡治療で対応できない場合には開放手術を行います。開放手術では口腔粘膜の移植術などの最新の技術を駆使した高度な尿道再建術も行っています。